1.宗教法人が関係ある主な官公庁と所轄
(1)都道府県知事
宗教法人の所轄庁は、原則、その法人が所在する都道府県知事となります。
(2)文部科学大臣
一定の要件に該当する場合は、文部科学大臣が所轄庁となります。
一定の要件とは、次の①~③に該当する場合をいいます。
①他の都道府県に境内建物を備える宗教法人
②①の宗教法人を包括する宗教法人
③他の都道府県内にある宗教法人を包括する宗教法人
例えば、大阪府に所在する宗教法人が奈良県に境内建物を建立した場合は、所轄庁が都 道府県知事から文部科学大臣に移ります。
(3)税務署
宗教法人の所轄税務署は、原則、その法人の所在地を管轄する税務署となります。
2.宗教法人が備え付けないといけない書類
宗教法人は宗教法人法で、以下の書類を作成し備え付け、所轄庁に提出する必要があります。
区分 | 書類の種類 |
設立時に作成する書類 | 財産目録 |
毎会計年度終了後3か月以内に作成しなければいけない書類 | 財産目録及び収支計算書 |
宗教法人の事務所に常に備える必要がある書類と帳簿 | ①規則及び認証書
②役員名簿 ③財産目録及び収支計算書並びに貸借対照表を作成している場合は貸借対照表 ④境内建物に関する書類 ⑤責任役員その他規則で定める機関の議事に関する書類及び事務処理簿 ⑥公益事業その他の事業を行う場合には、その事業に関する書類 |
収支計算書の作成義務の免除
現在、宗教法人法では、収支計算書は、公益事業以外の事業を行わない場合であって、その会計年度の収入額が8,000万円以下である場合はその作成が免除されています。
これは、収入規模の小さな宗教法人に対する事務負担の増加に配慮した経過措置であって、作成しないことを奨励するものではありません。
法人を運営するうえでは、収支計算書を作成することが望ましいとされています。
8,000万円の基準については、金融機関の借入や資産の売却など臨時的な収入は含まれないとされており、宗教活動による収入など、経常的な収入の合計額で判断されます。
3.宗教法人が作成した書類の提出
宗教法人は毎会計年度終了後提出が必要な書類があります。
所轄庁については、すべての宗教法人が提出する必要があり、税務署については、収益事業を行っておらず年間収入が8,000万円を超える場合と収益事業を行っている場合で提出する内容が変わります。
①所轄庁
会計年度終了後4か月以内に、事務所備え付け書類のうち、以下の書類を提出する必要があります。
- 役員名簿
- 財産目録及び収支計算書並びに貸借対照表を作成している場合は貸借対照表
- 境内建物に関する書類
- 公益事業その他の事業を行う場合には、その事業に関する書類
②税務署
ⅰ収益事業を行っておらず年間収入が8,000万円超の場合
収益事業を行っていない場合は、基本的に法人税の申告義務はありませんが、年間の収入が、8,000万円を超える場合には、会計年度終了後4か月以内に税務署に対して、『公益法人等の損益計算書等の提出書』とともに収支計算書又は損益計算書を提出しなければなりません。
『公益法人等の損益計算書等の提出書』はこちら (国税庁)
ⅱ収益事業を行っている場合
収益事業を行っている場合は、会計年度終了後2か月以内に、所得金額や法人税の額等を記載した確定申告書を提出するとともに、その法人税の額を納付しなければなりません。
確定申告書を提出するにあたっては、収益事業に関する貸借対照表や損益計算書だけでなく、収益事業以外(つまり、公益事業に関するものなどすべて)の計算書類も提出する必要があります。
4.税務署に提出する書類の内容を解説
収益事業を行っておらず年間収入が8,000万円超の場合は、収支計算書又は損益計算書を税務署に提出します。
また収益事業を行っている場合には、収益事業の貸借対照表と損益計算書、公益事業の貸借対照表や損益計算書又は収支計算書を提出する必要があります。
今回は、収支計算書、損益計算書、貸借対照表について解説します。
①収支計算書
収支計算書とはどのようなものでしょうか?これは名前の通り、収入と支出を表す表です。
お金の流れを示す表ともいえるでしょう。
収入とは、布施収入や葬儀の収入、寄付収入や借入収入など、お金の増加原因となるものをいいます。
支出とは、住職や役員への給与の支払い、旅費の支払い、行事の支払いなどお金の減少原因となるものをいいます。
計算書類を苦手とされる方は多いですが、収支計算書は家計簿に近いものと考えていただくと、苦手意識は少しは和らぐのではないかと思います。
要はお金の出入りを考えればよいのです。
②損益計算書
損益計算書とはどのようなものでしょうか?
収支計算書と何が違うのか?収支計算書は お金の出入りを表すものでしたが、損益計算書は、収益と費用を示す表です。
「収入と収益何が違うねん!」とよく突っ込まれますが、収益はざっくりいうと『もらいっぱなしになるもの』で費用は『払いっぱなしになるもの』と私は説明しています。
借入金で考えるとわかりやすいのですが、お金を借りたらお金はその時入ってきますが、将来、返さないといけないですよね。
なので収支計算では、お金が入ってきているので収入となります が、損益計算では、返さないといけないので、収益にならないと考えます。
お布施の収入はお金が入ってきてもらいっぱなしになるものなので、収支計算で収入にもなるし、損益計算で収益にもなると考えます。
損益計算は、収支計算と比べ、お金の動きとイコールでないという点で少し戸惑われる方が多く、帳簿をつけるにも簿記の知識がいります。
損益計算の概念がわからないという方は、専門家の力を借りることをおすすめします。
③貸借対照表
貸借対照表とはどのようなものでしょうか?
貸借対照表は、会計年度終了日における資産、負債、正味財産を示す表です。
財産目録と近い考え方となるので、各科目の金額はそれぞれ一致します。
財産目録と異なるのは、財産目録は単体でも成立しますが、貸借対 照表は、②の損益計算書の考え方で帳簿付けをした結果作成されるものとなります。
5.まとめ
宗教法人は、手続きや所轄している省庁も通常の株式会社や合同会社などの法人と異なります。
提出する書類も宗教法人の活動内容によっても異なります。
手続きや提出する資料で迷われた場合や、収益事業を行う際は、専門家に依頼するのが得策でしょう。